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生活者ネットワークの文教領域の質疑を始めます。
はじめに、ジェンダーの視点から見直す学校体育についてです。今年5月、近隣の区立中学校の体育祭を見に行きました。ちょうど男子1,500mが始まったところで、私自身も高校まで中長距離走の選手だったので興味深々で眺めていたのですが、その後女子が1,500mを走ることはなく、女子800mが始まりました。
後日、区立中学校全29校の体育祭プログラムを取り寄せて拝見したところ、中長距離走の種目がある15校中13校で男女で走距離に差を設けていることが分かりました。男女同距離に設定しているのは2校で、うち1校は男女混合で学年ごとに出走する方式を採用しているとのことでした。
そこでまず確認です。区立学校の体育祭のプログラムはどのように決められているのでしょうか。
(答弁)
(教育指導課長)区立学校の体育大会のプログラムは、例年の種目を参考に実施種目を決定しており、男女の種目に差があることは、教育委員会としても認識しております。
基本的に前例踏襲とのことですが、こうした男女の区別を課題と捉えている先生の声も聞いています。そもそも学校体育は、男性の教育手段として発展した競争的な近代スポーツを中心に学習内容が構成されており、性別二元制やジェンダー規範、シスジェンダー・異性愛規範が強固であると言われています。実際、学校体育の現場は男女で分けられることが多く、性によって異なるルールや服装等が適用されている他、「スポーツができる=男らしい」といった価値観が根強く、男性優位が発揮されやすい場になっています。「体育嫌い」の背景に、実はこうしたジェンダーやセクシュアリティをめぐる構造が作用している点が、様々な先行研究で明らかになっています。
当区では、「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」を定め、第7条で性別等の違いによる不当な差別的取扱いによる権利利益の侵害を禁止しているほか、現行の「世田谷区教育振興基本計画」においても、当該条例の理念や主旨を踏まえた教育の更なる充実を図っていく必要性を謳っています。こうした点に鑑み、体育祭を含む学校体育の現場でも、合理的根拠のない不要な男女分けや差異化は無くしていくべきではないでしょうか。伺います。
(答弁)
(教育指導課長)委員のご指摘を踏まえ、種目によって安易に男女を分けることのないようにするとともに、安全性に配慮しながら、生徒の声を尊重した大会の企画、実施がなされるよう、各学校に指導してまいります。
また、今年に入ってから区立中学校を中心に、体育の授業を見学させてもらっています。全区立中の約3割にあたる学校を見てきましたが、男女共習を実施しているのは1校のみ。それ以外は、教室での体育理論等の学習も含め男女別習でした。
現行の学習指導要領では、すでに原則男女共習が求められています。教育委員会は現在「インクルーシブ教育ガイドライン」策定に向けた検討を進めていますが、男女別習によって『どちらも自分が入っていける空間ではない』と感じているLGBTQ+ユース、『小学校までは男女や上手い下手関係なくワイワイ楽しかったのに、中学に入ってから男らしさを競わせるような場になりギャップに絶望した』という男性の声を無視するような体育のあり方は真のインクルーシブとは言えませんよね。
学習指導要領の改訂からすでに3年目となります。一例として、茨城県教委が昨年5月に県内の全公立中学校を対象に「学校体育調査」を実施したところ、約7割の学校が体育の男女共習を「全種目で実施」していると回答したそうです。当区においても、教育委員会が主導的役割を担い、男女共習を進めていくべきではないでしょうか。見解を伺います。
(答弁)
(教育指導課長)生涯にわたる豊かなスポーツライフの実現する資質・能力の育成に向けて、体力や技能の程度、性別や障害の有無等にかかわらず、運動の多様な楽しみ方を共有し、仲間とともに学ぶことは、重要な経験となります。
中学校における体育の学習は、原則として男女共習で行うことが学習指導要領で求められていることからも、委員ご指摘の体育理論や保健分野の学習を含め、不必要に男女で分けて授業を行うことがないよう、学校を指導し、授業における工夫の仕方と合わせて理解を図りつつ、生徒の実態や運動内容に配慮した男女共習を推進してまいります。
体育の授業を見学する中で、区立学校に通う子どもたちの中にも様々な声があるのではと思い、今年2月に独自のWEBアンケート調査を実施しました。区立小中学校に通った経験がある10代、20代の方を中心に、多様な性を生きる人が回答してくれました。簡易WEB調査のため、サンプル数は少ないものの、自由記述欄に様々な声が寄せられました。一部ですが抜粋して資料にまとめたので、ご覧ください。
● マラソン、運動会での全員リレーなど、やりたくないことをやらされて断る選択肢もないというのが非常に苦痛でした。なぜやる必要があるのかも説明もないので完全に押し付けだったと思います。
● 組体操で異性と手をつながなくてはならなかった。躊躇っていると「意識しているのか」と叱られた。これはアセクシュアル、つまり性的に他者に惹かれない人の声です。
● 男女分けされて男性の体育教員から「お前ら男なんだから」と強い口調で言われた。
● できないことを人前ですることの恥ずかしさ、それに伴う自己肯定感の低下。などなど…
区内にもこうした声があることをぜひ区教委に受け止めていただきたいです。学習指導要領では、生涯にわたって豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を育成するために『体力や技能の程度、性別や障害の有無等にかかわらず、運動やスポーツの多様な楽しみ方を共有できるようにすることが重要』としています。これは 2015年に全面改定されたユネスコの「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」が示すインクルージョンの考えにつながるものと言えます。ユネスコは同年「質の高い体育」(Quality Physical Education)ガイドラインを提案しており、海外では身体リテラシーを中心にしたカリキュラムや基準が作成されている他、共生の視点を取り入れたいわゆる「共生体育」の実践はすでに国内でも様々蓄積されています。
競技スポーツを学習の中心に据えた旧来型の学校体育が続くことで、身体を通したジェンダー規範の強化・再生産に積極的に加担している事実を踏まえ、当区においても、その真っ只中にいる子どもたちの意見を聞きながら、誰もが真に運動やスポーツの多様な楽しみ方を共有できる「共生体育」の実現を目指し、多様な価値から構成される体育カリキュラムのあり方を考えていくべきです。区教委の見解を伺います。
(答弁)
(教育指導課長)委員ご紹介のアンケート調査の結果につきましては、区教育委員会としても拝見し、区民の声として重く受け止めております。
学習指導要領は、体力や技能の程度、性別や障害の有無等に関わらず、運動やスポーツの多様な楽しみ方を共有するとともに、共生の視点を重視して授業の改善を図ることを示しています。
教育委員会としても、より一層この方針の実現が進むよう、学校に対して指導してまいります。
困難を抱える生徒への個別対応や配慮に加え、学校体育のあり方そのものを見直していくことで、男女共習も進むはずです。今後、共生体育の実践例を研究いただくことを要望するとともに、ぜひ体育の授業で「みんなが楽しめるスポーツってどんなものだろう?」と生徒たち自身が考え、新しい視点を獲得していく経験をしてもらいたいと思います。区の学校体育の今後に期待します。
次に、小学校における包括的性教育の推進について伺います。
この間、思春期世代へのリプロ周知啓発にかかる取組みが着実に前進し、区作成のリーフレットを活用した中学生への出張講座が全校実施となったことは、会派としても長年求めてきたことであり、大変評価しています。他方で、当面は中学生世代を対象としたこと、リーフレット作成検討に当初計画より1年プラスで時間をかけたこと等によって、結果的に小学生世代への包括的性教育が遅々として進められていない現状を憂慮しています。
今年1月には、武蔵野市の公立小学校で、授業用に配布されたタブレットで複数男子児童が女子児童の着替えを盗撮していた事案が報道されました。また4月には、関東地方に住む小学6年生の女子児童が、歌舞伎町に家出したその日に、一晩で3人の男性から次々と性被害に遭ってしまう事件も発生しました。小学生が性犯罪に巻き込まれてしまう事案が絶えない現状に、幼少期からの適切な包括的性教育をいまだに子どもたちへ届けられずにいる全大人の責任を改めて感じています。
「おうち性教育」の著者でもある村瀬幸浩先生は、生殖に関する話は遅くても思春期に入る前、中学1年生くらいまでに教えておく重要性を指摘しています。生活者ネットワークは、これまでも小学校における性教育の充実を求めてきました。2020年9月の定例会では、当会派の質問に対し当時の教育政策部長より『校長会とも相談しながら検討していく』との答弁をいただいています。その後の進捗はいかがでしょうか。
また、教育振興基本計画においても、人権教育の一環として「包括的性教育の推進」が掲げられている中、教育委員会として小学校における包括的性教育の必要性をどのように捉え、今後どのように進めていく考えなのか、見解を伺います。
(答弁)
(教育指導課副参事)小学校段階からの性に関する指導は、近年の社会環境の変化や情報化社会の進展など児童生徒を取り巻く状況が変化する中で、重要であると考えております。
学校における性を含めた健康に関する指導は、学習指導要領をはじめ、昨年度より全国で始まった「いのちの安全教育」や、都教育委員会作成の「性教育の手引き」等に基づき、学校の教育活動全体を通じて、小学校段階においても、指導の充実を図っているところです。
今後は、今年度より保健所と連携して取り組んでいる中学2・3年生を対象とした「出張リプロダクティブ・ヘルス/ライツ講座」の成果や課題を踏まえ、中学校での学習に円滑な接続ができるよう、小学校段階でのより効果的な学習内容や方法等について、好事例の共有や外部教材の活用など、具体的な取組みを検討してまいります。
生命の安全教育の教材や保健体育の教科書等を見ても、包括的性教育には程遠い内容です。一刻も早い、国際基準に則った包括的性教育のカリキュラム化が望まれますが、授業時数の確保や教材開発等、依然課題が多いのも理解します。
そこで提案します。昨今、民間主導による取組みや教材開発が活発に進められています。まともな性教育を受けられなかった私たち大人にとっても大変有益で読みやすく、さらに教員向けに子どもたちへの指導のポイントも掲載された親切丁寧な教材もあります。
こうした既製の教材を区で一括購入し、教員の皆さんに配布して日々の教育活動や子どもたちに向き合う際の参考として役立てていただくことも一案と考えます。まずは最低限、リプロ周知啓発のためのリーフレットを全教員に配布して目を通してもらうべきではないでしょうか。区教委の見解を伺います。
(答弁)
(教育指導課副参事)今年の3月に保健所が発行した「こころとからだのトリセツBOOK」は、様々な角度から心と体の健康と権利について考える契機となる内容になっており、対象の中学生だけでなく、日々、子どもたちと接している教員が内容を把握することは大切であると認識しております。
先の「出張リプロダクティブ・ヘルス/ライツ講座」では、実施した学校で希望者の中学生に配付をしており、来年度末までに全中学校で配布を行う予定となっております。その際に、教員用や予備として30部ずつ配布しておりますので、講座に参加した教員や担任教員、養護教員などを中心に、多くの教員にも配付し、活用していただくよう、校長会等で周知してまいります。
また、小学校の教員にも配付していく必要があると考えておりますが、配布するだけでは効果が限定的となる可能性もあるため、教員への研修時に配布する、指導のポイントを含む外部教材も併せて活用する等、小学校の教員も包括的性教育の基礎を理解した上で、子どもたちと向き合ったり、中学校への接続を見通した指導を行ったりすることができるよう、具体的な取組みを検討してまいります。
福祉保健領域では、障害がある女性のリプロダクティブ・ジャスティスをめぐる問題を取り上げ、障害福祉部に対応を求めました。しかし、障害者の「性と生殖に関する健康と権利」の保障の大前提となるのは、自分の心や身体のこと、他者との関係性等、生きることそのものである「性」に関する正しい理解、すなわち包括的性教育が必須です。
ところが、今年に入っていくつかの区立学校の特別支援学級の視察をさせていただき、先生方にお話を伺ったところ、性教育を殆ど教えられていない現状が垣間見えました。その一方、待ったなしで日々発生する一つ一つの事象、例えば男の子と女の子の距離が近すぎる、授業中に性器いじりを始めてしまう、女の子が男子トイレに入ろうとする等々の出来事に対して、「だめだよ」「やめなさい」としか言えていない現状は、根本的な解決にはつながらず、行為を行っている子にとっても最善とは言えません。現場の先生方も、大変ご苦労されている様子が窺えました。
配慮を要する児童・生徒への性に関する支援と対応について、ただでさえ多くの負荷を抱えて疲弊している現場任せにするのではなく、教育委員会として指導方針や対応に迷った時のQ&Aなど、日々の活動の中で参照できるような指針を示すべきではないでしょうか、区教委の見解を伺います。
(答弁)
(教育指導課副参事)各学校においては、特別支援学級の児童生徒に対する性教育についても、基本的には、通常の学級の児童生徒と同様、学習指導要領や、東京都教育委員会、文部科学省作成の手引き等に基づいて指導を行っております。
一方で、児童生徒一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階には個人差が大きく、集団の指導では理解が不十分な状況があることも認識しております。
児童生徒が性や健康に関して、より正しく理解することができるよう、教育委員会も参加している「思春期世代に向けたリプロダクティブ・ヘルス/ライツ周知啓発専門部会」での評価検証の結果も見据えつつ、児童生徒一人一人に寄り添った適切な学習内容・指導方法の改善・工夫に関して、今後どういった形で各学校に示していけるかを含め、特別支援学級における性教育の推進について検討してまいります。
最後に外国ルーツの児童・生徒への支援について伺います。
区は、2003年度より梅丘中学校に「帰国・外国人教育相談室」を設置し、指導支援校3校と連携の下、日本語指導等を中心に、海外につながる児童・生徒・保護者の支援を行っています。「令和6年度版事業概要―教育のあらまし「せたがや」」によると、昨年度の相談室事業実績として、相談連絡件数 637件とありますが、具体的にはどういった相談が寄せられ、どのような支援が行われているのか、伺います。
(答弁)
(学務課長)相談の内容といたしましては、日本語が分からない児童・生徒への対応に関する学校からの相談が多くを占めており、児童・生徒からは友達とのコミュニケーションに関する相談、また保護者からは転入に伴う世田谷区の日本語教育に関する相談などをいただいています。
相談室では、児童・生徒が速やかに日本の学校生活に適応できるよう、学校と児童・生徒や保護者との橋渡し役としての役割を担っており、学校とは適切に情報共有を行いながら連携しているところです。
現在の体制では、母語支援等のアイデンティティの問題や個別の背景から生み出される生活環境の問題への積極的な対策が不在であり、学校関係者だけにとどまらない、外国ルーツの児童・生徒への地域全体での包括的支援にはまだまだ課題があると言えます。本件に関しては引き続き取り上げてまいります。
以上で終わります。