区議会 第3回定例会 決算特別委員会 おのみずきが福祉保健委員会所管の質疑を行いました。質問全文をご覧いただけます。

議会の様子は↓こちらからご覧いただけます。

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生活者ネットワークの福祉保健領域の質疑を始めます。はじめに、ケアリーバー支援について伺います。

 せたがや若者フェアスタート事業にかかる歳出決算を見ると、予算現額約2,559万円に対し、執行金額約1,249万円(48.8%)と執行率の低さが気になります。本事業は児童養護施設退所者等奨学・自立支援基金を財源とし、その積極活用が議会でも度々問われてきたことを受け、昨年度より事業内容がぐっと拡充されました。予算現額の積算にあたり、支援を必要とする層や想定利用人数があったはずですが、実績とのギャップはどの程度あったのか、執行率の低さの主な要因は何だと考えており、来年度に向けてどのような方針で取り組んでいくのか、併せて伺います。

答弁

(児童相談支援課長)せたがや若者フェアスタート事業は、平成28年度の事業開始以降、給付型奨学金の給付者は、直近では令和3年度が8名、4年度が15名、5年度が23名と着実に増加している。また、5年度より事業を拡充し、新たに資格等取得支援・家賃支援を開始したところである。

 新規事業については、措置解除予定者の人数から、類似事業の実績、進学率や就職率、普通自動車運転免許の保有率等を踏まえ、給付者の想定を行ったところだが、家賃支援については、国や都の他の支援制度を活用している退所者等もおり、全体的に想定よりも申請が少ない結果となっている。

 現状も、都内児童養護施設等に漏れなく事業のご案内を送付しているところではあるが、今後は、より多くの対象者に情報が届き、申請に繋がるようメルクマールなど自立支援にかかる関係機関へも拡大し、さらなる周知を行っていく。

 せっかく多くの方が寄付をくださり、充実した支援メニューが用意されているので、ぜひ一人でも多くの人に届くように工夫してください。

 関連して、昨年度より事業開始した居場所事業及び相談支援「せたエール」についてです。令和5年第4回定例会で、社会的養護を経験せずに成人した虐待サバイバー等を「見えなかった子どもたち」とし、こうした若者が置かれた状況の困難さに鑑み、せたエールの利用対象を拡充できないか提案しました。開始初年度の利用実績、感触はいかがでしょうか。伺います。

答弁

(児童相談支援課長)せたエールの利用者の年齢層としては、19歳位の、退所後自立して間もない層と、退所して数年経ち、出身施設等との関係も希薄になりつつある中、就職先での悩み等を抱える24~28歳位の年齢層の利用が多く、男女比でみると、女性の利用が多くなっている。

 令和4年度改正児童福祉法の施行により、今年度から社会的養護を経験していない若者も支援対象者となったため、これまでの対象者との居場所での過ごし方について、課題整理と検証をしていくこととしていたが、居場所支援を実施する中で、現時点では、利用者同士の良い交流や情報交換の場になっている。

 今後も、様々な背景を持つ若者が、居場所の一つとしてせたエールに足を運び、利用した際には安心して過ごしたり、相談ができるよう、引き続きせたエールと情報共有し、実態を把握しながら、支援の質の向上を図っていく。

 社会的養護を経験していない若者も同じ場をシェアし、交流が生まれているようで良かったです。今夏、視察させていただいた豊島区の「わたカフェ」は若年女性のための居場所でしたが、そこで伺ったのは支援機関を目的に応じて賢く使い分けている女の子たちの姿でした。居場所をめぐるニーズは実に多様です。せたエールも居場所の選択肢の一つとして困った時に思い浮かべてもらえるように、引き続き事業の深化に努めてください。

 次に、障害のある女性のリプロと複合差別の実態について、順次伺います。

 今年7月、旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判で、最高裁は、旧優生保護法を憲法違反とする初めての判断を下しました。1996年まで48年間続いた旧優生保護法は、精神障害や知的障害などを理由にした不妊手術を認め、手術を受けた人はおよそ2万5000人に上り、うち少なくとも1万6500人は同意なく強制されたと考えられています。その約7割は女性です。今回の判決は、30年近くかけて国家による謝罪と賠償を求めてきた方々の悲願であるとともに、国連障害者権利条約の23条、25条に規定される障害者の「性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health & Rights)」の保障においても重要な、歴史的判決と言えます。

 しかし、現実には障害者、特に障害のある女性のリプロダクティブ・ライツ、そしてリプロダクティブ・ジャスティスの実現は、まだまだ道半ばです。産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つか、妊娠・出産・避妊・中絶について十分な情報を得て自分で決められる権利は、周囲の人や社会によって容易に奪われ、安心して子育てができる環境も十分実現できているとは言えません。

 2022年12月には、北海道江差町の社会福祉法人あすなろ福祉会が運営するグループホームで、20年以上前から知的障害のある入居者が結婚や同居を望んだ際に、「障害者が出産を望んだ場合はうちは支援できない」として不妊処置を提案し、13名の入居者が実際に不妊手術に至っていたことが発覚しました。この事件を受けて厚労省が実施した調査によると、全国の障害者向けグループホームのうち、結婚や出産、子育てに関する相談支援や自立支援を実施しているのは1割程度に留まり、過去約2年間で実際に出産や育児を支援した事例があったのは3%のみでした。回答した入居者の4割以上を10〜30代の若年層が占めており、将来的なパートナーシップや家族形成への期待を持っているにも関わらず、運営事業者にとってはまだまだ対応の知見が不足していることは明らかです。

 ここで確認です。子ども・子育て応援都市として区では、昨年3月に定めた「今後の子ども政策の考え方(グランドビジョン)」の下で『すべての子育て家庭が、日々の暮らしの身近なところで、人や支援につながるためのサポートの充実』等を掲げ、子育て支援策の更なる充実に取り組んでこられたと思います。障害のある方も、安心して子育てができるサポート体制は政策として万全に整っているとの理解でよろしいでしょうか。

答弁

(子ども・若者支援課長)区は、妊娠期から就学前までの子育て家庭を切れ目なく支えるために、区・医療・地域が連携しながら、相談や子育て支援等に取り組む「世田谷版ネウボラ」に取り組んできた。

 委員お話のグランドビジョンでも、世田谷版ネウボラの深化を位置づけており、障害の有無や国籍等に関わらず、全ての子育て家庭の子ども・子育て支援の充実に取り組んでいる。

 先の調査によると、入居者への同棲・結婚・妊娠・出産にかかる支援事例があった約5〜6割がグループホームで行われています。区内には現在、85箇所の障害者グループホームがありますが、そこで入居者より同棲・結婚したい、子どもが欲しい等の相談があった場合、どのような支援が行われているのでしょうか。区の豊富な社会資源に確実につなげられるように、グループホーム事業者に対して区はいかに指導・支援を行っていくのか、伺います。

答弁

(障害地域生活課長)令和6年度の報酬改定ではグループホームを含む障害福祉サービスは、利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、利用者の意思決定の支援に配慮するよう努めなければならないことが求められている。

 グループホーム事業者は、利用者から将来に向けて結婚したい、子どもが欲しい等の相談があった場合も、本人の意思決定に基づき相談支援事業者や区の関係所管と連携しながら個別支援計画やサービス等利用計画を見直し、本人の希望に応じた生活が実現できるよう支援をおこなうことになる。

 すでに国からグループホーム事業者に対し、相談支援事業者や関係機関との連携の下、利用者の希望を踏まえて結婚、出産、子育ての支援を実施することや、出産した場合、直ちに新たな住居等を確保することが困難な場合にはそれまでの間、子どもとの同居を認めることができる旨の通知が示されている。区としてもグループホーム連絡会等を通して本人の意思決定に基づく支援が適切に行われるよう子育て支援に関する情報も含めて周知をしていく。

 リプロダクティブ・ライツは誰もが有する基本的人権です。グループホーム事業者が区の各種施策を十分に把握できておらず、その結果当事者の自己決定や基本的人権が否定される事態が起こることのないよう、徹底をお願いします。

 障害のある女性のリプロの否定は、1996年に優生保護法から優生思想の条文が削除され、母体保護法へ改正された後も続く複合差別の形態の一つです。北海道の事件に対して寄せられた声や、DPI女性障害者ネットワークが発行する複合差別実態調査報告書を見ると、障害者の結婚・妊娠・出産・子育てをめぐる偏見や差別は依然社会に根深く存在し、「自らケアを受けながら他者のケアをする」ことはまだ当たり前にはなっていません。

 障害のある女性が安心して出産・子育てをするためには、本人だけでなく周囲も含めて性に関する正しい知識にアクセスでき、地域にその実現を支える様々な社会資源があることを知っておくことが重要です。「世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例」第8条2項は、障害と性別等との複合差別に起因する社会的障壁を取り除くために、必要かつ合理的な配慮を行う区の責務を規定しています。障害のある女性のリプロダクティブ・ライツ及びリプロダクティブ・ジャスティスの実現に向けて、区は積極的な発信に取り組むべきと考えますが、見解を伺います。

答弁

(障害施策推進課長)今年6月、国は、障害者の希望を踏まえた結婚、出産、子育てについての事例集を取りまとめ、障害福祉、母子保健、児童福祉の各種施策の連携による支援を推進するよう各自治体に通知した。

 障害のある女性が結婚し、安心して出産・子育てを選択できるためには、周囲が本人の権利と自己決定を尊重するとともに、出産と子育てをサポートする福祉施策があることを理解しておくことが大切と認識している。

 今後、障害者の出産・子育てに関する理解と啓発、自己決定を支える支援などについて、関係機関と協議しながら課題を整理していく。

  

自分の身体や人生に関する自己決定には、性に関する正しい理解・情報へのアクセス保障が大前提です。保健所が中心となっているリプロ周知啓発に加え、障害福祉部でも今後どういった対応が可能か検討いただくよう要望します。

 あわせて、リプロダクティブ・ヘルスを保障するための環境整備にも取り組んでいただきたいです。堺市立重症心身障害者(児)支援センターベルデさかいでは、婦人科外来を設け、障害特性に配慮した診察をしています。特に、婦人科は診察環境が特殊であり、時に侵襲的な処置が行われることもあり、例えば未知の体験や待つのが苦手といった知的障害の特性により受診のハードルが高くなる可能性があります。実際に、知的障害のある女性の乳がん死亡率は一般の死亡率より高いというデータもあり、この背景として、知的障害のある女性はマンモグラフィ検査の受検率が低いゆえに、乳がんが進行してから発見されることが多いと見られています。ダウン症や脳性まひの女性は、痛み等を言語または表情で表すのが困難なため、症状があっても無いものとしてみなされている可能性も指摘されています。

 こうした点に鑑み、区内にも障害特性に配慮した婦人科外来を設けることはできないでしょうか。見解を伺います。

答弁

(保健医療福祉推進課長)委員からお話のございました、堺市立重症心身障害者(児)支援センターベルデさかいは、指定管理者として堺市から委託を受けた、社会福祉法人三篠会が運営している施設ですが、同施設内で行われております婦人科外来は三篠会の運営ではなく、堺市立病院の専門外来として、堺市が運営していると聞いております。

 障害に特化した婦人科外来を区内に整備することは、医師など専門スタッフの確保、その上で人件費を含めた経費面など多くの課題があると認識しております。

 委員お話のとおり、心身に障害があるために、痛みや恐怖などにより通常の診察台での診療が難しいなど、一般の婦人科外来での受診が困難な方が安心して受診できる環境を整備することは必要であると認識しております。区といたしましては、婦人科をはじめとする区内医療機関や医師会に、できるかぎり障害の特性に応じた診療を行っていただけるよう働きかけてまいります。また、他の自治体の動向を探るなど情報収集に努めてまいります。

 障害のある女性が、女性として生きることと障害があることによって被る複合差別や困難は、リプロの否定だけではありません。性被害に遭っても被害を訴えるのがとても難しいこと、同性介助を希望しても中々叶わないこと、就労や経済的自立をめぐる課題、無性として扱われること等、多岐にわたります。

 この4月には「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が施行となりました。国の基本方針では、『法が定義する状況に当てはまる女性であれば年齢、障害の有無、国籍等を問わず、必要に応じて法による支援の対象者となる』と明記されています。

 女性支援新法に基づく計画的な取組みを進めるべく、まずは区内における複合差別の実態把握が必要と考えますが、区の見解を伺います。

答弁

(障害施策推進課長)世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例では、障害を理由とする差別に加えて、性別、性の多様性などが複合した状態による困難に対して適切な配慮を行うことを定めている。

 いわゆる女性支援新法の制定を受けて、障害者相談支援機関に調査を行ったところ、女性ゆえの困難に直面した経験のある方が、障害当事者にもいることが分かった。

 現在、生活文化政策部において、新法の主旨を踏まえた基本方針を策定予定であり、障害福祉部としても、令和9年度からの次期せたがやインクルージョンプランの策定に向けて、障害者(児)実態調査に関連項目を設けることについて検討する。

 

ぜひお願いします。最後に、情報アクセシビリティの保障についてです。

 先月うめとぴあでイベントを主催しました。多様な人に参加いただけるように、情報アクセシビリティの保障にかなり意識的に取り組んだところ、合理的配慮の提供には相当なマンパワーとお金が必要になることを痛感しました。

 2022年5月には「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が成立、施行されているほか、今年4月には「改正障害者差別解消法」が施行となり、個人事業主やボランティア団体を含む民間事業者等についても、合理的配慮の提供が義務化されました。法整備が着実に進む一方、国や地方自治体以外の多様な主体が、情報アクセシビリティ推進に取り組もうとしても、追加的コストや負担がこれだけ大きいとなると、実際には対応が難しいのではと思います。

 そこで提案です。民間団体・個人が開催するイベント等の活動におけるUDトーク導入や手話通訳者派遣、翻訳にかかる経費等、情報アクセシビリティを保障するための経費の補助ができないでしょうか。区の見解を伺います。

答弁

(障害施策推進課長)令和6年4月、改正障害差別解消法が施行され、障害者への合理的配慮が民間事業者にも義務化された。合理的配慮に関する経費については、一般的には、配慮を行う事業者や団体が負担するものと考えている。

 一方、区では、障害者が外出しやすい環境整備のため、現在、商店や事業者を対象として、段差解消スロープなど合理的配慮のための物品を購入する際の経費助成を行っている。

イベント等における手話通訳などの合理的配慮は、現在の制度では助成対象ではないものの、情報アクセシビリティに関する合理的配慮は大切であり、例えば、公共性が高いイベントの場合に経費助成の対象にするなど、制度の見直しの機会を捉えて検討していく。

以上で終わります。