高岡じゅん子 議員 初めに、世田谷区のDX推進と個人情報保護の重要性について質問します。
先月、国会においてデジタル改革関連の六法案が成立し、私たちは皆、この大きな社会変化の波に否応なく巻き込まれようとしています。政府も、地方自治体も、国民や住民の個人としての権利を守り、安心安全、幸福の追求の基盤を提供することがその使命です。デジタルトランスフォーメーションもまた、誰一人取り残されない社会づくりのツールの一つにすぎません。自分の権利を行使し、行政からサービスを受けるための申請手続が自宅のパソコンや手元のスマートフォンから、時間と場所にとらわれずできる便利さを先日来のワクチン予約を通じて多くの区民が実感する一方、この基盤に乗り切れない場合の不便さ、また、格差についても痛感することとなりました。今後も電子申請は可能なところから着々と進んでいくと考えられます。
電子申請を行うとき、申請者を特定する個人認証の全国的な基盤としてマイナンバー制度があります。自分が自分であることを公的にデジタル認証するためのデジタルの実印のような十二桁の番号です。私自身は、この実印に相当するようなものをカードの形にして、常時携帯するということに非常に違和感を覚えています。今、マイナンバーカード取得促進のためのマイナポイント付与や、マイナンバーカードに様々な機能を加えることでカードの普及を図っていますが、本来の機能である個人認証や個人の情報の利用状況確認、マイナポータルとしての信頼性こそがDXの基盤としては重要です。
そもそも個人カードという設計思想は、サービス提供も個人単位が基本です。しかし、番号の通知カードの郵送時点から世帯単位で通知が行われるなど、本当に個人を大切にできる仕組みになるのか、行政サービスの実務でうまく使われていくのか疑問がありました。昨年の定額給付金支給の場合も、申請はこの番号を使って可能でも支給は世帯単位であるなど、実務とのミスマッチがあり、大変大きな混乱が起こりました。
生活者ネットワークは、世帯主を代表者とした世帯単位ではなく、個人単位での権利保障の必要性を長年訴えています。支援を必要としている人が声を上げやすく、その人自身に必要な支援が迅速に届くために役立ってこその個人認証です。
国のマイナンバーの取扱いやシステムの構築がちぐはぐなため、区役所など基礎自治体の現場が苦労しています。この実態を踏まえ、区から国に対して声を上げ、区民目線、現場目線でのシステム再構築、「Re・Design」を促していく必要があるのではないでしょうか、区の見解を伺います。
御近所には知られたくないんだけれども、区の担当の方だからお話しします。そんな言葉で相談を受ける区の職員がたくさんいると思います。住民との接点の多い現場は、個人情報にあふれています。今後、こういった様々な個人情報がデータ化され、事務処理の外部委託なども進んでいくと考えられます。世田谷区においては、独自の個人情報保護条例によって、一つ一つの業務が個人情報保護の視点から妥当であるか、審議会の意見を聴く仕組みが機能してきました。昨年は、コロナ禍における異例の業務などもあったと聞いています。世田谷区情報公開・個人情報保護審議会の活動の現状と意義について伺います。
丁寧な個人情報の取扱い、個人情報保護に関する区の仕組みが区政への信頼を形づくってきました。今回、個人情報保護法の改正では、個人情報保護の様々な規制を原則的には国の基準に統一することが求められている一方で、自治体独自の仕組みに関して必要なものは認めると言われています。
世田谷区は、今まで大切にしてきた独自の制度に自信を持ち、区民のためにこの仕組みを堅持することを求めます。区の見解を伺います。
次に、差別や人権侵害のない世田谷を目指して質問します。世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例が施行され、三年が経過しました。近隣の川崎市では、差別のない人権尊重のまちづくり条例が一年半前に成立しています。深刻なヘイトスピーチデモなどが行われてきた川崎では、公共の場所でのヘイトスピーチをなくすため、勧告、命令、公表、罰則までを書き入れた実効性の高い条例がつくられました。幾つかの点に注目し、世田谷区の人権保護の仕組みのさらなる向上を求めます。
川崎市の条例には、インターネットを利用した人権侵害全体に対して、被害の救済を図るための支援を市が行うことが書き入れられています。これはデジタル社会の進展に伴う弊害への対策を先取りしたものです。昨年の五月、女子プロレスラーの木村花さんがネット上の誹謗中傷により追い詰められ自殺に至った、あの事件をきっかけに総務省も相談体制を強化しようとしています。誰が悪意ある書き込みをしたのか分からなくても、プロバイダーなどを通じて削除依頼ができることなど、被害にあったら泣き寝入りしない啓発がまだまだ必要です。
世田谷区としても、今後、インターネット上の人権侵害や誹謗中傷から区民を守るための支援を強化していく必要があると考えます。見解を伺います。
ヘイトスピーチに関して、川崎と世田谷では状況は異なっています。しかし、昨年の東京都知事選において、ヘイトスピーチを繰り返したことで有名な団体の代表者が世田谷区において一万一千票以上を獲得しているということを見ますと、必ずしも対岸の火事と考えているわけにはいきません。川崎市では、条例の制定以前から、ヘイトスピーチ解消法に基づき、公園の使用不許可などできる対応を積み重ね、そして、最後に、川崎の実情に合わせ、このような厳しい条例をつくることとなりました。ヘイトスピーチ解消法が施行されて五年、あからさまなヘイトデモの回数は全国的に成立以前の十分の一の規模に減っている、その一方、インターネット上の誹謗中傷には歯止めがかかっていないと、昨日のNHKのニュースで報道されました。
世田谷区においても、ヘイトスピーチをなくすため、実効性のある取組を求めます。区の見解を伺います。
今定例会の私の質問では、デジタル社会の大きな流れの中、世田谷区としてどのように個人の尊厳を守り、世田谷区らしい特色を生かした新たな行政の価値を創造していくかということを巡って質問を組み立てました。自分についての情報は、その人自身のものです。デジタル化によって、その情報が本人の知らないうちに使われたり、移動や行動の記録が監視やストーカー被害につながったりするような社会を招いてはなりません。
皆様は、デジタルタトゥーいう言葉を御存じでしょうか。例えばプライベートの写真であっても、一度インターネット上に流出したデジタル情報は、まるで一生消えない入れ墨のように残ってしまうということを意味する言葉です。映像以外にも、言葉でもインターネット上に文字として残り、発言した人自身の将来に影を落とすことも起こっています。まして、人違いでインターネット上に悪意ある書き込みの被害を受けたような事例で、流出した誤情報を消し切ることはほぼ不可能です。SNSなどの匿名性に隠れて、自分が絶対正義であると勘違いし、人を断罪し、死ねとか出ていけなどの言葉を発信する危うさ、最近の小中学生が受けているような当たり前のネットリテラシー教育を受けていない世代にもデジタル社会のルールを周知していく必要があります。
デジタル社会が進む中、新たな課題が見え出した言葉による人権侵害の防止に対する区長の見解を求め、壇上からの質問を終わります。
区長 高岡議員にお答えをいたします。
いわゆるネット社会における人権侵害、深刻化している現状について、見解をお話ししたいと思います。
インターネットの掲示板やSNSを通して、見ず知らずの人から突然、身に覚えのない中傷を受けたり、あるいは事実に反するうわさを流されたり、お話にもありましたけれども、名前が似ているということで全く関係ない事件と一体だと、こういったことを流された、そういう被害は一層広がっています。
木村花さんのお話がありました。そもそもテレビ番組を通して、その放送をきっかけに、見るに耐えないような攻撃が続き、その攻撃がやはり心を大変脅かして、そして、死んだほうがいいというような選択をされてしまった。大変繰り返してはならない悲劇だと思いますが、これは繰り返される土壌が現在の社会にあり、今はそういった事件化されなくても、SNSの投稿が基で居住地が特定され、例えば不特定多数に住所をさらされたり、あるいはつきまといや嫌がらせ、注文していないものが届くなどの被害を受けている方、これも大変多いと聞いております。
インターネットで発言する人の匿名性の攻撃が執拗に行われることがやはり原因の一つと思われますが、このネット上の中傷や、根も葉もない捏造されたうわさや、そして人格攻撃は許されるものではなく、不当な差別や理不尽な排除に苦しむ、このことを放置してはならないというふうに考えます。断固として止めるようにしたいと考えています。
私は、男女共同参画と多文化共生を推進する条例の趣旨にのっとって、区民一人一人が多様性を認め合い、人権が尊重される地域社会の実現に向けて、不当な差別や理不尽な排除を許さない、こういう覚悟で、この条例施行以降、取り組んでまいりますが、世田谷区民の中で、こういったネット攻撃、そして、亡くなる方の、約百人少しの方が亡くなっていますけれども、原因の中にこうしたことがなかったかどうか、これは大いに検証しなければならない。
区として、いわゆるネット社会の中における言葉の暴走、人権侵害、ここをどう取り組むのか、小中学生にタブレットを全員に配って、ネットリテラシーの教育も付しておりますけれども、そうした子どもたちだけではなくて、区民全体にそういったルールをしっかり示すとともに、ルール違反に対してどうするかということをちょっと課題として受け止めて、今後、検討していきたいと思います。
地域行政部長 私からは、マイナンバーによる個人認証システムの信頼性、実務との関連について御答弁を申し上げます。
行政手続に関する区民の利便性を高め、窓口業務の効率化を図るため、DX推進方針に基づく電子申請の利用拡充を推進する必要がございます。マイナンバーカードを利用した電子申請においては、カードとパスワードを利用した認証方式による個人認証となっており、現在、要求される情報セキュリティーの技術水準を満たしているものと認識してございます。行政手続のデジタル化に向けましては、マイナンバーカードによる情報セキュリティーの安全性を御理解いただき、安心して御利用いただけることが重要と認識してございます。
一方で、昨年度の特別定額給付金のオンライン申請では、申請者による多くの入力が必要だったこともあり、区では、誤入力等によりまして、内容確認の作業も発生いたしました。今後、国による説明会や二十三区の担当課長会などの機会を捉え、マイナンバーカードに関する手続の動向や安全性確保のための情報を共有するとともに、区といたしましても必要な要望を関係機関に伝えてまいります。
以上でございます。
総務部長 私からは、二点御答弁いたします。
まず、情報公開・個人情報保護審議会の現状についてです。
情報公開・個人情報保護審議会は、学識経験者や各種団体から推薦された委員、公募の区民組員など十四名で構成されております。審議会では、区における情報公開、個人情報保護の施策が条例に基づき適正に執行されているかについて専門的視点などから御意見をいただくほか、番号法に基づく第三者点検の役割も担っていただいており、昨年度は四十六件の事案を諮問し、審議していただきました。また、区の情報公開、個人情報保護の取組について情報提供や報告をさせていただいており、適正な事務執行が行われていることを確認していただいております。
次に、法改正に伴う個人情報保護の取組についてです。本年五月十九日に公布されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律により、個人情報の保護に関する法律が改正され、地方自治体に関連する部分については、公布の日から起算して二年を超えない範囲で施行される予定となっております。新たな個人情報保護法は、これまで全国自治体が条例などにより独自に整備してきた個人情報保護制度について全国的な共通ルールを導入するものとされておりますが、各自治体が条例により独自の規定を設けること自体を禁止しているものではなく、また、情報公開・個人情報保護審議会のような諮問機関を設け、個人情報の適正な取扱いを確保するために意見を聴くことなども可能となっており、引き続き様々な御意見を頂戴したいと考えております。
関係する政令、省令の改正や、国が今後示すとしているガイドラインの内容に関する情報収集に努めながら、新しい法律に基づく区の情報公開制度や個人情報保護制度の取扱いにつきまして、情報公開・個人情報保護審議会の意見も伺いながら検討を進めてまいります。
以上でございます。
生活文化政策部長 私からは、二点お答えいたします。
初めに、インターネット上の人権侵害についてです。
SNS等の普及により、匿名のまま不特定多数に向けて特定個人の誹謗中傷を行う行為は人権侵害であり、深刻な社会問題となっております。令和元年度、総務省が設置する違法・有害情報相談センターに寄せられた相談は約五千二百件、また、法務省が対応したインターネット上の人権侵害に関する件数は約千九百件に上り、十年前と比較して約三倍増加しております。一般社団法人セーファーインターネット協会では、誹謗中傷ホットラインを設け、相談者に対して削除依頼方法などのアドバイスを行っております。
区といたしましては、こうした国などの取組について、ホームページなどを活用し広く区民に周知していくほか、今後、若年層への意識啓発の手法について、男女共同参画・多文化共生推進審議会委員などから御意見をお聴きするなど、検討を行ってまいります。
次に、ヘイトスピーチについてです。
ヘイトスピーチは、人々に不安感や嫌悪感を与えるだけでなく、人間としての尊厳を踏みにじる差別と偏見に満ちた重大な人権侵害であり、決して許されるべきものではないと認識しております。区では、世田谷区多文化共生プランにおいて、多文化共生の意識づくり及び偏見・差別の解消を基本方針の一つに掲げております。この基本方針に基づき、教育委員会、国際交流センターなどと連携しながら、せたがや国際メッセなど様々な交流事業を実施し、異文化について理解を深め、人権を尊重し合いながら、ともに暮らしていける多文化共生への意識づくりを推進しているところです。
今年度、国においては、ヘイトスピーチ解消に向けた普及啓発ポスターを刷新すると聞いております。この活用を含め、区として、今後あらゆる機会を通じて偏見、差別解消の啓発に取り組んでまいりながら、不当な差別的取扱いへの対応として、多文化共生の施策に関する区民や事業者からの苦情や意見の申し立て、相談などにも引き続き対応してまいります。これらの取組を通じまして、区民一人一人がともに多様性を認め合い、人権が尊重される社会の実現を目指してまいります。
以上です。
高岡じゅん子 議員
御答弁いただきまして、区長から、本当に急速なデジタル化が進む中で、人権を守っていくためにこれから検討しなければならない課題があるということを言っていただきました。ぜひ実効性のあるヘイトスピーチを含めた人権侵害の言説、ネット上の言説を止める方法について、これから積極的に研究し、実効性のあるものにしていただきたいと思います。
区の持っている個人情報を基にして、このような間違った誹謗中傷とかが起こるということを私は非常に恐れております。個人情報保護というのは、単純に身近いことではなくて、最終的にそれが元になって何か非常に大きな人権侵害が起こったときに大変なことになる、そのことを自覚していただいて、個人情報保護の今の制度をきちんと堅持していただくことをさらに求めて、私の質問を終わらせていただきます。