第3回定例会  意見 2022.10.21 田中みち子

令和4年9月 定例会-10月21日

田中みち子 議員 刑法の性犯罪規定の見直しに関する意見書について、賛成の立場で意見を申し上げます。

性犯罪は魂の殺人と言われるように、被害者の尊厳を徹底的に傷つけ、その後の人生に大きな爪痕を残す重大な犯罪です。二〇一七年には、明治四十年の制定以来、実に百十年ぶりの刑法改正があり、性犯罪に関する規定の見直しが行われました。長きにわたり被害者を女性に限定してきた強姦罪は強制性交等罪として定義が広がり、強盗より罪が軽かった法定刑の下限懲役は三年から五年に引上げられ、被害者自ら告訴が必要だった親告罪は撤廃されました。また、監護者の地位にある人が十八歳未満の子どもに対して性交やわいせつ行為をした場合は、暴行、脅迫がなくても、同意があっても処罰の対象になる監護者性交等罪、監護者わいせつ罪の新設など、厳罰化する改正ではありましたが、実態に即していません。

刑法改正の翌年には、再度改正に向け、性暴力支援を行う十二団体で構成された院内集会が開かれ、私も参加しました。性暴力に遭った被害者が警察に性被害を申告しても被害届が受理されず不起訴になるなど、厳罰化されてもなお、法的壁が立ち塞がり、加害者を罰することもできず、救済の道が厳しい現状を伺いました。また、性暴力被害は女性だけの問題ではなく、子どもや男性、外国人、特に障害児者への性暴力は社会の認識が低く、大変不利な状況に置かれている現状を変える必要があることから、議会質問にも繰り返し取り上げてきました。

性暴力被害者に対しては、あなたは悪くないというメッセージを広げるなど、被害者の理解を進めると同時に、被害者が泣き寝入りせず、声を上げやすい環境を整え支援する体制を構築し、世田谷区内でのワンストップ相談窓口の設置や、警察、病院、支援団体などの関係機関との連携など、被害当事者の立場に立った支援や人権教育としての性教育など求めてきました。

一方、二〇一九年には四件の性暴力事件が相次ぎました。性暴力の根絶を訴え、全国に広がるフラワーデモのきっかけになった事件でしたが、皆さん覚えていらっしゃいますか。三年前の三月に二件続いた実父による性暴力事件に少し触れたいと思います。

まず、静岡地裁の事件。当時十二歳の娘へ実の父親が性虐待を行った強制性交等罪事件です。家が狭く、同室の家族が気づかないのは不自然であり、信憑性がないとして無罪判決。続く名古屋地裁での事件では、娘が中学二年生のときから性虐待をしていた実の父親の準強姦事件。裁判では、娘への性的暴行を認めながらも、娘が抗拒不能ではなかった、つまり抵抗しようと思えばできたはずだとして無罪判決。厳罰化してもなお、刑法の限界が露呈しています。どちらの事件も高裁において逆転有罪となりましたが、性被害の痛ましさに比べて、性暴力を罪に問うにはあまりにも高いハードルがあることがお分かりになるかと思い、あえて申し上げました。

これらがきっかけで、性被害当事者の勇気ある告白に呼応する形で、日本における#MeTooやWithYou、Onevoiceなど、一人一人の地道な活動がやがて全国へと広がり、社会を動かす大きな力になりました。その結果、性虐待被害当事者を含む専門家で構成された刑法性犯罪規定の改正の検討が二〇二〇年六月から始まり、現在は法制審議会の場で、暴行・脅迫要件、性交同意年齢の引上げ、公訴時効の撤廃など、前回の改正で見送りとなった論点を含む十項目の諮問について議論が行われています。

しかし、法制審議会で挙げられている性犯罪に関する改正案では、被害当事者の実態とかけ離れた結果を招くおそれがあるとの指摘があります。国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ、一般社団法人Spring、一般社団法人Voice Up Japanの三団体などは、被害当事者や支援者などの意見が反映されず、実際の被害が救済されないのではないかとの危機感を強めており、緊急オンライン記者会見を行っています。

五年前に厳罰化された刑法は、教師や親族などの立場を利用した性虐待の抑制や暴行・脅迫要件や時効の撤廃、十三歳以上となっている性交同意年齢の引上げなど、課題は山積しています。日本では、暴行、脅迫が立証できなければ罪に問えません。しかし、イギリス、アメリカのカリフォルニア州、ドイツ、台湾、カナダなどは、同意がない性交は犯罪と認めています。スウェーデンの刑法などは、性的なアプローチをした側が相手の同意を明確に確認する必要があるという意味のYes means yesが反映されています。不同意性交等罪の創設など、世界から後れを取る日本においても、これらが反映される社会になることが望まれます。

最後に、私たち生活者ネットワークは、性暴力の根絶を目指し、フラワーデモと連帯して毎月十一日前後に東京全体で遊説を行っています。各地域からは、被害当事者や周辺の方々からのコロナ禍での性被害の声が届きます。令和三年度の世田谷区内の性犯罪認知件数は、強制性交等罪で十四件、強制わいせつ罪で二十六件、合計四十件です。令和元年は五十五件、令和二年は四十五件と年々減少してはいますけれども、これは氷山の一角だということは、世田谷区議会の皆様には十分御理解いただけるはずです。

世田谷区議会としても、国会及び政府に対し、改めて声を上げられない性被害者の実態や視点に立った刑法改正の性犯罪に関する規定を見直すことについて、ここにいる議員全員の賛成をもって国への意見書を提出することを期待いたしまして、生活者ネットワークの賛成意見といたします。(拍手)