おのみずき 議員 通告に基づき、順次質問します。
初めに、子どもの権利擁護と虐待被害者支援に関連して、大きく三点お伺いします。
第一に、虐待被害者支援についてです。
先日、児童虐待被害者の伴走支援を行う民間団体が主催する「見えなかった子どもたち~虐待被害者の未来を知ってください~」というイベントに参加しました。ここでの見えなかった子どもたちとは、社会的養護につながることのできなかった成人の虐待被害者を指しています。
同団体が実施したアンケート調査では、当事者六百八十三名の声が集まり、社会的養護未経験の児童虐待被害者の成人後の実態に焦点を当てた本邦初の調査データとのことで、各種メディアで報道されました。
従来、虐待被害の影響としては、身体的影響、トラウマやPTSD等の心理的影響、アタッチメント障害など関係性への影響がよく知られていますが、成人後の社会経済的影響に関してはあまり注目されてきませんでした。本調査によると、六割近くが生活関連、半数以上が経済関連、三、四割が就職や住居にも困難を抱えていると回答しています。生活保護受給率は一六・四%、また、九割以上が希死念慮を抱え、この六割が実際に自殺を実行している点も看過できない重要な示唆です。
区ではこの間、社会的養護経験者に対する事業を確実に拡充してきた点は評価します。一方で、今次調査が明らかにした見えなかった子どもたちが抱える課題に関しては、ほぼ目を向けてこなかったと思います。
来年四月より施行となる改正児童福祉法では、社会的養育経験者等に対する自立支援の強化が掲げられています。区としても、まずは既存の各種相談窓口を中心に、子ども時代の虐待経験がその後の人生に与え得る社会経済的影響に関する理解促進を図り、当事者の支援ニーズに寄り添ったアクセスしやすい相談支援体制への改善を進めてください。
また、今年度よりスタートした児童養護施設退所者等相談支援事業、せたエールの利用対象を拡大し、虐待の影響により困難を抱えている当事者のための支援につなげられないでしょうか、見解を伺います。
第二に、児童相談行政における子どもの権利擁護の推進について、学習権の保障と当事者主体の支援という二つの視点から伺います。
先日、世田谷区教育大綱が策定されました。区の教育に関して何か迷ったときに、いつでも戻ってこられる基本的な理念を示すものとの位置づけで、従来の行政文書の型からあえて脱却したこの新しい大綱は、子どもたちだけでなく、多くの区民に親しまれる存在になるとともに、区政において、私たちが進むべき方向を示すコンパスの役割を果たしてくれるものと期待しています。
先日、早速この教育大綱を読み直す機会がありました。というのも、世田谷児相の一時保護所において、子どもの学ぶ権利が守られていないのではとの声を伺ったからです。児相に一時保護となった中学生のお子さんが、保護開始から丸五か月間にわたって一時保護所にとどめられることとなったそうです。この間、保護者の方が本人に一時保護所での様子を聞いたところ、本当に毎日やることがなくてつらい、友達がいる学校に行かせてほしい、どうして自分たち子どもは何も悪いことしていないのに閉じ込められて、大人たちは自由な生活を送っているのか、こういった切実な声を聞いたそうです。
一時保護は、安全確保と引き換えに、子どもにとっての行動や自由、学習権を一定程度制限せざるを得ないため、長期化することは、子どもにとって権利侵害となります。このため、一時保護は原則二か月を超えないことになっていますが、過去にも長期化するケースはあったと聞いています。特に学齢期の子どもにとって、数か月間学校から強制的に引き離されることの意味は計り知れないほど重いものです。一時保護が長期化するケースの背景にはどういった要因があるのか、結果として学校で友達と一緒に学ぶ権利を含め、子どもの権利侵害が生じている事態に対して、区はどのようにお考えでしょうか、見解を伺います。
教育大綱は、学びの権利は、誰もが持つもの。この保障と実現こそ、世田谷の教育の目指す礎であるとうたっています。一時保護中の子どもに関して、一部の権利を制限せざるを得ないのであれば、せめてオンラインで授業に参加できる仕組みを整備したり、原則通学不可のルールをより柔軟に運用するなど、子どもたち一人一人の状況、学びを深める速度やリズムの違い等に丁寧に寄り添った学習支援や通学支援を強化、徹底すべきではないでしょうか、併せて見解を伺います。
また、教育大綱では、子どもは個性を持った独立した人格とされており、これは子どもの権利条約の理念にも通底するものです。この基本理念に立ち返るのであれば、児童相談所においても、問題解決の主人公は子ども本人であるという当事者主体の支援を進めるべきではないでしょうか。現に児相につながった多くの子どもたちが、大人に対する信用を失っていたり、否定され続けたことで諦めに近い感情を抱いているケースが少なくありません。
現在検討が進められている子どもの権利擁護に係る環境整備や意見表明等支援事業についても丁寧に進める必要があります。
こども基本法第三条三項に規定されるように、年齢及び発達の程度に応じて子どもを交えた協議、双方向の意見交換の場を積極的に設け、子どもの自己情報コントロール権や意見表明権の保障を進めるとともに、新しく導入される意見表明等支援員には徹底した当事者主体の支援を行っていただきたいです。区の見解を伺います。
第三に、社会的養育の推進についてです。
家庭的養育優先の原則に基づき、区は、世田谷区社会的養育推進計画を策定し、この間、様々な取組を展開してきた点は評価します。しかし、里親等登録数は一定程度増えましたが、里親委託率に関しては、令和六年度の目標値五五・五%に対して、現状二六・九%と依然目標達成には程遠いです。実際に区民の方からも、子どもの措置決定に当たり、里親を希望してもかなわなかったという事例も聞いています。こうした事例を少しでも減らすためにも、里親登録数と委託率の向上はより一層力を入れて進めていく必要があります。区は、これまでの取組の効果をどのように評価し、今後の改善に生かしていくお考えでしょうか。
また、里親となり得る家庭をめぐる状況も、この間の社会情勢の中で大きく変化しています。現役世代や若い子育て世帯の経済的困窮、家族の在り方をめぐる価値観の多様化等、従来以上にアプローチする対象のニーズに寄り添った広報や周知啓発の展開が期待されます。見解を伺います。
次に、多様な女性のエンパワーメント施策の強化推進についてお伺いします。
まず、困難女性支援法の実施に向けた体制整備についてです。同法は、これまでずっと福祉の対象にならずに取り残されてきた女性福祉の分野に特化し、人権擁護と男女平等の実現を基本理念に掲げた初めての法律です。市町村基本計画の策定は努力義務ですが、現場を担う自治体として、地域の特性を十分に反映する形で、多様な支援を包括的に提供する体制を整備するとともに、世田谷版基本計画の策定は必須であると考えます。見解を伺います。
また、現実に機能する支援体制の構築に当たっては、新たな女性相談支援員をはじめ、人材の確保、育成が極めて重要です。区内外のNPO等民間団体との連携の必要性については、前回定例会の質問で確認をしましたが、民間団体も数が限られています。こうした団体が運営する相談員養成講座もあるものの、あくまで民間資格のため、取得後のキャリアパスが明確でない点も多く、地域の潜在的人材候補と採用ニーズがマッチしていない現状も課題です。かかる現状に鑑み、区も既存団体との連携に加え、地域で必要な人材を地域で育てるとの視座に立ち、女性支援に関わる人材の確保、育成施策を真剣に検討していく必要があると考えます。今後の取組に関する区の見解を伺います。
なお、新たな人材を養成した後に、会計年度任用職員等の不安定雇用となっては本末転倒です。ソーシャルワークに求められる専門性の高さを考慮し、女性支援に関わる地域の担い手の待遇改善を確実に進めるよう強く要望します。
最後に、地域の女性たちのエンパワーメント拠点の整備についてです。
先日、米国サンフランシスコで行われた第三十回APEC首脳会議に合わせて企画された第一回オープン・フューチャー・フォーラムに参加してきました。このイベントは、APECの政策課題でもある新世代の女性政治リーダーの育成支援を目的に開催され、二十一の加盟国から現職議員やこれから立候補を目指す人が集まり、三日間のプログラムを通じて共に学び、交流をしました。本イベントへの参加により、改めて心理的安全と参加者同士の信頼を担保した対話の場の重要性、国境を越えた共感とネットワーク構築の意義を感じ、私自身も大変エンパワーされる機会となりました。
さて、翻ってここ世田谷区では、男女共同参画センターらぷらすが地域における女性のエンパワーメントの主たる拠点機能を担ってきました。昨年より、国のほうでも男女共同参画センターの機能強化に関する議論が進められ、所要の法案について、令和六年通常国会への提出が目指される中、庁内のジェンダー主流化をはじめ、区におけるジェンダー平等施策推進に係る重要なハブセンターとしての一層の役割が期待されます。
同時に、今後は地域の個人や団体、事業者と連携し、区民の身近な生活の中に、多様な女性たちが出会い、つながり、対話し、自信を獲得していくための場の創出を応援すべきと考えます。
二〇〇三年から二十年にわたって議会におけるパリテ、男女同数を実現している神奈川県大磯町では、カフェを拠点におしゃべりする文化が育っており、女性たちは、一人でも私はできると自信を持って行動できる風土があるそうです。他自治体の事例も参考にしつつ、ハブセンターとしてのらぷらすと、地域と連携した女性たちのエンパワーメント拠点の整備、ネットワーキング支援を両輪で進めるべきと考えます。区の見解を伺います。
以上で壇上からの質問を終わります。
◎子ども・若者部長 私からは、四点御答弁いたします。
初めに、児童虐待が及ぼす影響についての関係機関への理解促進についてです。
児童虐待が子どもに及ぼす影響としましては、身体的な影響のほか、知的発達面の影響など様々ございます。また、議員お話しのとおり、虐待が、ひいては生活困窮など社会的な影響につながる例も少なくないものと認識しております。虐待は、早期発見、早期対応が重要であり、虐待を把握した際の対応のみならず、虐待が将来にわたって子どもに深刻な影響を及ぼすことを、保育園や学校など子どもと日常的に関わる立場の関係機関等に対して、子どもの虐待防止ハンドブックなどを配布しながら周知してきたところです。今後、御指摘のような相談窓口等も含め、要保護児童支援協議会の枠組みなどを活用しながら、関係機関の理解促進に取り組んでまいります。
次に、せたエールの対象者の拡充についてです。
せたエールは、児童養護施設や里親といった社会的養護の出身者を対象としておりますが、虐待経験がありながらも、これまで公的支援につながらなかった若者への支援の必要性については、区としても認識しております。社会的養護の出身者と社会的養護を経験していない若者が同じ居場所で一緒に過ごす場合の居場所での支援の在り方など、整理すべき課題もございますことから、今後せたエールの実施状況を検証していく中で、対象者の在り方についても検討してまいります。
次に、子どもの自己情報コントロール権や意見表明権の保障、意見表明等支援員による当事者主体の支援についてです。
議員お話しのとおり、児童相談所が関わる子どもについても、当然に一人一人が権利主体であり、権利擁護の仕組みについても、当事者主体という観点から制度を構築し運用していくことが重要だと認識しております。
区では、令和六年度より、児童相談所の措置内容に不服がある場合、子どもが直接児童福祉審議会へ申し立てることができる制度を構築するとともに、申立てがあった際、円滑かつ公平に子ども等へ調査が行えるよう、外部人材による調査員を新たに設けることといたします。
意見表明等支援事業につきましては外部委託で実施し、意見表明等支援員は、児童相談所等から独立した立場で、子どもに寄り添いながら活動を行います。また、対応状況等に関するフィードバックは関係機関を中心に行い、意見表明等支援員が行うことになる場合においても、子どもに説得する立場にならないよう留意してまいります。実施に当たっては、事業者や児童相談所など関係機関との意見交換はもとより、実際に児童相談所が関わる子どもの意見も丁寧に聞きながら、適切に準備を進めてまいります。
次に、養育里親の登録数向上に向けた取組の効果検証や周知啓発の展開についてです。
区児童相談所開設以来、里親のリクルート業務等については、業務委託により取り組み、インターネットやSNSを活用した普及啓発や様々なイベントの実施など、民間の創意工夫による多様な手法にて里親の開拓に取り組んでまいりました。こうした取組の成果として、里親の登録数や委託率について一定の増加を見たところではありますが、社会的養育推進計画に掲げる目標には及ばない状況です。
今年度からは、フォスタリング業務について、包括的に委託して一貫した支援の中で、より実際的なニーズに応じたリクルートに取り組むことなどができるようになりました。また、里親子フレンドリーシティを掲げ、里親子を地域で支えるための普及啓発を実施するなど、より里親になっていただきやすい環境整備にも取り組んでいるところです。
来年度見直しを行う社会的養育推進計画の検討の中で、こうした取組の効果も含め検証を行い、里親を希望する方、一人一人のニーズにも丁寧に寄り添いながら、さらなる里親委託の推進に向けた取組を検討してまいります。
以上です。
◎児童相談所長 私からは、二点御答弁申し上げます。
初めに、一時保護所における子どもの権利の保障についてです。
一時保護は、子ども本人や保護者の同意、または家庭裁判所の許可に基づき行っておりますが、一時保護が必要となる背景は虐待や非行など様々であるため、一人一人の子どもの状況に応じた適切な支援による安全安心な環境の確保が、まずは重要になります。一時保護中は、子ども及び保護者との信頼関係を構築し、子どもの意見などを丁寧に聞き取り、家庭の中で起きている問題についてアセスメントの上、家庭復帰や施設入所等の支援方針を立て、それに向けた親子間の調整など様々な支援を行っています。
そうした中で、親子関係の調整に時間がかかることや、施設入所の場合は受入先が決まらないなどで一時保護が長期化する場合もあります。議員お話しのとおり、保護が長期化し、子どもの権利を一定程度制限する期間が長くなることは課題と認識しており、子どもの権利を守る取組として、意見箱の設置や、子ども主導で保護所内での生活について定期的に話し合う子ども会議を実施するなど、様々な工夫をしております。
今後とも、子どもが権利の主体であることを常に念頭に置き、子どもの最善の利益が優先されるよう、支援の充実に取り組んでまいります。
続きまして、一時保護所における子どもの学ぶ権利の保障について御答弁申し上げます。
一時保護中の学習については、教員免許を持つ学習指導員が各学年、学力に応じた学習指導を日課の中で行っています。また、定期試験を受けることや修学旅行の参加など、必要に応じて在籍校との連携の下、個別的な対応をしております。特に高校生では、進級のための単位取得が必要な場合などは、子どもの安全面を十分考慮して、通学させることもあります。
しかしながら、先ほども申し上げたとおり、一時保護が長くなる中、学校に通えない期間が長期化することは課題と考えております。今後は、子どもの安全な生活を確保しながら、学校で配布されているタブレットの活用など、一時保護所内の学習支援の強化や通学支援の拡充を検討し、学ぶ権利の保障のさらなる充実に向けて取り組んでまいります。
以上です。
◎生活文化政策部長 私からは、三点御質問にお答えいたします。
初めに、困難女性支援法成立に伴う世田谷版基本計画の策定の必要性についてでございます。
困難な問題を抱える女性への支援に関する法律が令和四年六月に制定され、この法律に基づきまして、厚生労働省においては、基本方針の策定、都道府県においては基本計画を策定することが規定されており、市区町村においても、基本計画の策定に努めることと規定されてございます。
このことに伴い、厚生労働省が本年三月に基本方針を策定したことを受けまして、現在、東京都福祉局において基本計画の策定に向けて検討を行っているところでございます。これについては、令和六年三月に策定する予定と聞いてございます。
区では、都や国との連携が非常に重要であるということに鑑みまして、東京都の基本計画を踏まえ、来年度から課題の整理、既存の事業の枠組みを活用できる支援、新たな対応が必要な支援、これらについて検討しまして、所管を明確にした上で、効果的な支援の在り方を関係所管等とともに体系化してまいりたいと考えているところでございます。また、これと並行しまして、区としての法律に基づく基本計画の取扱いについても検討してまいります。
続いて、同じく困難女性支援法に伴いまして、人材確保、人材育成の準備についてでございます。
困難な問題を抱える女性への支援を包括的に実施するためには、女性相談支援員をはじめ、支援に当たる人材が困難な問題を抱える女性の実態や課題を把握し、必要な支援スキルや専門知識を習得する機会が必要であるということで考えてございます。
現在、困難な問題を抱える女性に対する相談等については、各総合支所、子ども家庭支援センターの婦人相談員を中心に支援を行っているところでございますが、実際の支援から見えてきた課題や、国の基本方針において今後策定が予定されております研修カリキュラムを参考に、来年度の支援の在り方検討の中で、庁内外の支援員に向けての研修体系も今検討しているところでございます。
あわせて、法律において、関係機関や民間団体等との支援内容の協議や連絡強化を図ることを目的に、これを組織することが努力義務とされております支援調整会議についても、人材確保、育成や、地域資源の創出、開発につなげるため、その組織の在り方について検討を進めてまいります。
最後に、女性のエンパワーメント拠点の整備についてでございます。
男女共同参画センターらぷらすでは、男女だけでなく、多様な性も含めた全ての人が性別等にかかわらず生き生きと暮らすことを後押しするための拠点施設でございます。現在は三軒茶屋にございますが、三軒茶屋から離れた地域にお住まいの方からは、アクセスの面で利用しづらいとのお声もいただいていることから、従前から取り組んでおります学校出前授業に加えまして、地域団体や事業者向け出前講座、居場所事業の出張開催など、区内各地でアウトリーチ型の事業展開をしているところでございます。
また、今後、これまでジェンダー問題にあまり関心のなかった方も含め、区民、事業者、地域の支援者の方々なども対象に、参加した方々がつながり対話することができる場として、男女共同参画をテーマにした地域懇談会の開催を予定してございます。
こうした取組を通じまして、男女共同参画に主体的に関わる区民や地域団体等のネットワークを構築し、さらに関係を深めていくことで、区内各地域において、女性を含め全ての区民が自分らしく生きていけるような取組を進めてまいります。
以上でございます。
おのみずき 議員 ジェンダー版タウンミーティングを今後地域で実施予定ということですが、区が音頭を取る企画だけでなく、地域の方々との協力連携、地域発のユニークな取組をぜひ応援いただき、多様な女性たちのエンパワーメントにつなげていただくよう意見を申し上げて、質問を終わります